こちらでは、その名の通り耐震性に優れた天井を指す「耐震天井」の概要や、特定天井との違いについて解説していきます。
耐震天井とは、以下のような「パーツの補強」「ブレースの設置」「クリアランスの確保」といった3つの対策を施し、耐震性を強化した天井を指します。
地震などの振動で力がかかると、補強していないクリップ・ハンガーといったパーツが動いたり、はずれてしまう恐れがあります。それをビスやボルトを使って固定することにより、トラブルの発生を防ぎます。
一般的な吊り天井を横から見ると、吊りボルトと天井面で四角形が構成されていますが、この状態だと横からの衝撃に弱く、全体がグラグラと横揺れします。そこで、ブレース(斜め部材)を設置することで三角形を構成。横からの衝撃による横揺れを防ぎます。
クリアランスとは隙間のこと。地震などで構造体が揺れた際に、周囲の壁などと天井が衝突しないよう、天井と壁の間にクリアランスを確保します。
耐震天井に対しては、剛性や許容耐力を評価するために性能検証が行います。具体的には、
の2つの主に試験を行います。
パーツ試験では、接合部を再現した上で引張方向、圧縮方向、水平方向に力を加え、剛性や強度を測定します。
静的ユニット試験では、実際に屋根をくみ上げた上で、XとYの水平方向に力を与え、剛性や強度を測定します。
また、地震時における天井の状態を観察するために、専用装置で地震の揺れを再現する「動的振動台試験」を補完的に行うこともあります。
先に述べたように、耐震天井とはパーツ等を補強して耐震性を高めた天井のことです。一方、特定天井とは建築基準法施行令第39条第3項にて定められた、「落下することで重大な危害が生じる恐れのある天井」を指します。
また、国土交通省告示第771号では「日常的に人が立ち入る場所に設けられるもの」「高さ6m超の天井部分で面積200m²を超えるもの」「天井面構成部などの単位面積質量が2kgを超えるもの」と定義されています。
この特定天井に該当する場合、国土交通省告示第771号が提示する方法で耐震化を図る必要があるのです。
特定天井が定められた背景には、2011年に発生した東日本大震災があります。広範囲に甚大は被害をもたらした東日本大震災では、吊り天井が落下する事例が相次ぎました。さらに吊り天井落下による被害も大きかったため、政府は吊り天井における耐震性の見直しが必要であると考えたのです。
その後基準づくりが行われ、見直し内容をまとめたうえで告示されたのが国交省の第771号です。吊り天井の耐震性の見直しに合わせ、建築基準法第39条も一部が改正されています。
特定天井は、地震が発生した際の被害も大きくなると考えられます。万が一に備えるためには、特定天井を耐震天井に変えるなどの改修工事が求められるでしょう。いずれにせよ、特定天井を放置するのは少々危険といえます。
特定天井に該当する場合、建築物が既存か新築かによって、対応に差があります。それぞれで対応すべきことは以下の通りです。
既存の建物に特定天井がある場合、増改築を行う場合には新築時の基準に合わせるか、天井材が落下しても脱落・破断しないことが確認された部材を設置する「落下防止措置」をとる必要があります。具体的にはワイヤーやネット、ロープなどを設置して落下を防止します。
落下防止措置は、地震の際に施設の利用者が避難できるよう、脱落した天井を一時的に保持する性能があれば対策として認められます。例えば、ワイヤーで保持した天井の一部や全部が、余震によって脱落することを防ぐことまでは求められません。
新築の建物が特定天井となる場合、ルートと呼ばれる3つの検証方法を使って一定の仕様に適合させる必要があります。
構造耐力上、一定の基準を満たして安全な天井構造にすることで、天井が落下する危険を防止する方法です。天井の構造の耐震性を強化した仕様に定めて安全性を検証します。
仕様ルートには「斜め部材+一定の隙間」と「隙間なし天井」があり、天井の最大長さが20メートルを超えたり勾配天井を設置したりする場合は「斜め部材+一定の隙間(クリアランス)」、天井と周囲の壁などとの間に隙間を設けない場合は「隙間なし天井」で検証します。
計算ルートとは、仕様ルートでの検証が構造上困難なケースで、特定の計算方法によって耐震性を検証する方法です。仕様ルートのように重量や吊り長さの制限はありません。計算方法には「水平震度法」や「簡易スペクトル法」、「応答スペクトル法」があります。
水平震度法は、吊り天井の水平方向の固有周期を用いずに計算できる方法で、応答スペクトル法は、構造躯体の応答を求めた上で、天井の安全性を検証する高度な計算方法です。簡易スペクトル法は応答スペクトル法の略算法で、簡易スペクトル法や応答スペクトル法を採用した場合、構造計算適合性判定が必要となります。
天井の構造が特殊なケースや複雑な構造の吊り天井の場合に行われるのが大臣認定ルートです。建築物が「時刻歴応答計算」を用いている場合は「建築基準法施行令第20条第一号」に基づく大臣認定を、特定天井の構造方法によらない特殊な構造の特定天井は、「第39条第3項」の規定に基づいて大臣認定を受ける必要があります。
吊り天井の安全性や耐震性を、個別の実験や計算で検証する方法ですが、検証事例はまだあまりなく、少数にとどまっています。
建築基準法施行令第39条の1項では、建造物の天井を含む部分について、
建築基準法施行令|e-gov風圧並びに地震その他の震動及び衝撃によつて脱落しないようにしなければならない。
と定められており、耐震天井をふくむあらゆる天井について、最低限の耐震性を確保することが義務付けられています。
「特定天井及び特定天井の構造耐力上安全な構造方法を定める件」と題された平成25年国土交通省告示第771号では、特定天井が定義されています。
同法によれば、人々の生活圏にある天井のうち、
の条件を満たしたものが、特定天井となります。
※参照:「国土交通省告示第七百七十一号 特定天井及び特定天井の構造耐力上安全な構造方法を定める件」|国土交通省
一般社団法人建築性能基準推進協会が「構造耐力上安全な天井を構造方法」について周知するために公表しているのが「建築物における天井脱落対策に係る技術基準の解説」です。
特定天井の構造方法を、仕様ルート・計算ルート・大臣認定ルートの3つに分け、それぞれのルートにおける計算方法などを解説しています。
平成28年国土交通省告示第791号は、特定天井の安全性を前述の仕様ルートで検証する際、周辺の壁等に対して隙間を設けないように求めるものです。
学校施設における天井等落下防止対策のための手引は、東日本大震災を受けて、学校での天井崩落を防ぐために文部科学省が制定したものです。既存の天井の安全性を検証するための方法、および問題がある場合にはどんな対策を講じなければならないか等について説明がなされています。
公共建築工事標準仕様書とは、官庁施設を施行する際に遵守しなければならない仕様について定めるものです。材料や機材、工法、試験…といったカテゴリーに分かれています。
屋根については、1.5m以上の高さの屋根裏を持つ屋根の補強方法について仕様が定められています。
2011年の東日本大震災以降、特に学校や体育館などでの耐震性が見直されました。2014年4月には建築基準法施行令第三十九条に「特定天井」の定義が追加され、地震に耐える技術的基準が定められました。この基準により、耐震天井の導入が公共施設を中心に進められています。
耐震天井の設計においては、震度6強以上の大地震を想定することが前提となっています。震度6強から7の地震は、建物や設備に大きな影響を与える強力な揺れです。特定天井に関する建築基準法の改定では、特に防災拠点となる建物において一段高い耐震性能が求められており、安全性と機能継続性を両立させることが重視されています。
中地震(震度5弱~5強)に耐えられることは最低限の基準ですが、耐震天井ではさらに強い地震にも対応できるように設計する必要があります。この点において、公共施設や防災拠点における耐震性能の向上が求められているのです。
これまでの耐震設計では、特定天井が主な対象でしたが、現在では建物内のすべての天井に対して耐震性と機能継続性が求められています。特に大規模な地震が発生した際には、天井の落下や損傷によって建物内の活動が停止することを防ぐため、天井の耐震対策は欠かせません。
また、天井の設計だけでなく、設計に従った施工が確実に行われることも非常に重要です。設計に基づいた正確な施工は、地震時の天井の損傷を防ぎ、避難所や公共施設としての機能を維持するための基盤となります。
吊り天井は、地震の際に大きく揺れ、壁などに衝突して落下する危険性があります。このため、「構造体の変形に追従する」天井が求められています。これは、地震が発生した際に天井が構造体と一体で動く、もしくは衝突を避けるための隙間を設ける設計です。
特に公共施設や文化・スポーツ施設などでは、このような設計の耐震天井が採用されることが推奨されています。吊り天井を使わない準構造耐震天井工法や、地震に強い適切な設計が求められており、安全性を確保するための対策が進められています。
耐震天井を導入する際には、以下の点がポイントとなります。
これらのポイントを考慮した耐震天井の導入は、建物の安全性を高めるだけでなく、地震時の機能維持にも大きく貢献します。
既存の天井を耐震天井に改修するという方法のほかに、膜天井にするという選択肢もあります。
膜天井は、吊り材を使わずに天井全体に特殊なシートを施工する方法で、特定天井に該当しません。特定天井の場合、安全性を示すための検証作業をしなくてはなりませんが、膜天井は特定天井に該当しないため、検証作業をしなくて済みます。
膜天井は吊り天井に使われる素材(石膏など)に比べて薄くて軽く、揺れを吸収するため振動にも強くなっています。通常の改修工事に比べて工期も短く済むことが多いため、膜天井という選択肢を候補に入れるのもひとつの手段でしょう。
膜天井のメリットとして挙げられるのが軽さです。一般的な天井で使われている素材と比べ、膜天井は軽いものが使用されています。当然吊り天井よりも軽量ですので、その分安全性の向上が期待できます。
吊り天井の落下被害が大きくなる理由は、天井材の重量があるためです。重量が大きいと、落下時に人や物へ与える衝撃も強くなります。膜天井は素材が軽いため、万が一落下した時でも人・物への被害を抑えることが可能です。
柔らかい点も膜天井のメリットといえます。膜天井は、薄くて柔らかい膜のような天井材が使われています。そのため変形に強く、上下方向からの衝撃に対して変形追従が可能です。
一般的な天井材の場合、地震の衝撃によってヒビが入ったり、割れたりするおそれがあります。状況によっては落下する危険もあるでしょう。一方、膜天井は変形追従が可能なため、地震の衝撃で破損するリスクは低めです。また、変形による落下のリスクも抑制できることから、建物の安全性も高められます。
膜天井は軽さと柔らかさに加え、強度も備えています。膜天井で使われる天井材は数mmと薄い一方、落下物をしっかり受け止められる強度があります。見た目は強度が低そうに見えますが、かなり頑丈な素材ですので、天井材を突き破って物が落下するリスクも抑えられます。また、落下物を受け止める強度があるため、重みで膜天井が脱落するトラブルも抑制できるでしょう。
建物の耐震対策と聞いた場合に、土台や柱、壁などへの対策を思い浮かべる方が多いのではないでしょうか。しかし、実は天井の耐震対策も非常に重要なポイントです。そのため、あらかじめどのくらいの費用がかかるのかという目安を知っておき耐震天井の工事について検討してみてはいかがでしょうか。
また、建物の耐震対策を行うときに受けておきたい耐震診断についてもご紹介していますので、こちらもぜひ参考にしてみてください。
耐震天井を提供するメーカーをいくつかピックアップして紹介します。地震に強く、デザイン性も兼ね備えた天井システムで、建物の安全性を向上させたい場合、施工や取り扱っている製品について確認のうえ比較してみましょう。
500m2以上の工場向け
こんな膜天井
集合住宅向け
こんな膜天井